必死剣鳥刺しは藤沢周平の「隠し剣狐影抄」に収録されている八編の内の一話である。舞台はいつもの海坂藩、兼見三佐ェ門は3年前藩主の愛妾を城中で刺殺した。愛妾が政治に干渉し、政道を著しく歪めていたためである。しかし、寛大な処置でたいした処分はされず、1年の閉門後藩主のそば近くの近習頭取に抜擢される。
藩主の悪政を正そうとする別家隼人正から藩主を守るために、兼見三佐ェ門の剣技特に鳥刺しという必勝の技を役立てよとの中老の秘命であった。
しかし真実はそれだけではなかった。藩主に命をかけて悪政を諌めに来た剣客でもある別家隼人正を、兼見は傷つきながらも倒すのだ。しかしそこに現われた中老は意外にも、隠していた伏兵に「乱心して別家隼人正を切った兼見を切れ」と命じ、惨殺させる。
その声を聞いた瞬間、兼見は中老と藩主に、別家を切らせ、また愛妾を殺された恨みを晴らす罠があったことを知る。兼見が死んだと安心して傍に来た中老に、絶命したはずの兼見の身体が躍動し、彼の剣は槍のように中老の身体を貫いていた。それが必死剣鳥刺しであった。
藤沢周平は海坂藩に舞台をとり、いつものように正義感のある下級武士も体制側の理不尽に一矢を報いるものの、支配階級の非常な力に潰される現実を描いている。
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