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2010年8月28日 (土)

・京野菜の成立と技術的発展(その6)

これは20068月に農業生産技術管理学会シンポジウムで発表したもので、多少内容を変えて6回に分けて紹介します。京野菜の写真は別に載せる予定でいます。

   

  技術的発展  

次いで2番目には、京都の立地的特性を利用して、京野菜の付加価値を高めてきた技術があり、これらは全国に先駆けて京都に起こったものである。古くは室町時代の初期(1330年頃)、京都南部の淀でナス、キュウリの早作りが行われていた。

これはこの一帯が砂地で冬季でも太陽熱で暖まりやすかったことと、周辺の湿地帯にあったヨシが防風の役割を果たしていたためである。日本各地に苗を供給し、明治になっては韓国などにも苗を輸出していたようである。

江戸時代(文政年間: 1818—30)に下京で、ゴミの埋立地で堆肥化したところでサトイモが萌芽しているのを見た篤農家があり、腐熟した堆肥が発酵熱を出していることに気がついた。早速そのことを応用してショウガサンショウ促成栽培に成功している。

またそれよりやや遅れて(天保年間: 1830—44)聖護院で、ナス、キュウリ促成栽培が行われるようになった。その当初は苗場の周囲ワラ、コモで覆うだけであったが、やがて床土の下に発酵しやすいワラを敷きこみ、その発酵熱を利用して成育を早め、早く収穫できるのを可能にした。

その後、夜間や雨天に苗の上を油障子などで覆い保温することが考え出され、それが明治・大正を経て現在の温床育苗へと発展していった。これらの篤農技術が、京見物に来た人たちによって、江戸に広がり、明治になっても愛知などに広がったとされている。

京の地下に巨大な水かめがあり、豊富な地下水のあることを先に説明した。安土桃山時代(1586年頃)に秀吉は京都市内を外敵から守るため、土塁を京都の周辺部に築いたが、その際低地に湧き水があったところでセリ栽培が始まった。地下水15℃前後で冬暖かくて夏は冷たいため、良品を早く栽培することが可能となった。

江戸時代の終わり頃、同じように地下水の湧き水で軟白しているミョウガを見つけたことから、伏見区で湧き水を利用し、暗所で軟白して育てたミョウガの促成栽培が始まっている。また200年前の江戸時代末期、伏見区の砂質の傾斜地で暖かくなる土地を選びウドを植えておき、翌春3月頃盛り土をしてその中で成育する新梢を軟白する栽培が始まった。また亀岡では床にワラなどを敷き込み発酵熱を出る軟化室に根株を植え、軟白する促成ウドも江戸末期から始まっている。

○参考文献

青葉 高. 1991. 野菜の日本史. 八坂書房.

青葉 高. 1983. 日本の野菜葉菜類、根菜類. 八坂書房.

ふるさと野菜の会. 1998. ふくいの伝統野菜. 福井新聞社.

板木利隆. 2001. 昔の野菜 今の野菜. 幸書房.

京都府農会. 1909. 京都園芸要鑑.

京都国立博物館. 2000. 若沖没後2000. 京都国立博物館.

なにわ特産物食文化研究会編. 2002. なにわ大阪の伝統野菜. 農文協.

杉山直義. 1998. 江戸時代の野菜の栽培と利用. 養賢堂.

高嶋四郎. 1982. 京野菜. 淡交社.

高嶋四郎. 2003. 京の伝統野菜と旬野菜. トンボ出版.

田中大三. 1991. 京都の伝統野菜. 誠文堂新光社. 

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                                  図1 促成園芸技術

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                            図2 1)囲い

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図3 2)堆肥の発酵熱、油障子 ショウガ・サンシ

ョウ

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図4 2)堆肥の発酵熱、油障子 ナス・キュウリの促成

                             図5 3)湧き水の利用

                             図6 4)苗作り①

                             図7 4)苗作り②

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